このインタビューは2018年9月におこなわれました。肩書等は実施当時のものです。
EY Japan カントリー・マネージング・パートナー(CMP)/
EY新日本有限責任監査法人 理事長 辻 幸一 氏
内永 EY新日本有限責任監査法人(以下、EY新日本)様は「2018 J-Winダイバーシティ・アワード」でベーシックアチーブメント準大賞を受賞されました。監査業界では初となる受賞は快挙であると同時に、今後監査業界全体の「D&I活動への追い風」とも言える、非常に素晴らしい出来事でした。
辻 ありがとうございます。大学院修了後に就職し、D&Iへの意識が組織全体で変わっていく過程を、私自身肌で感じながら改革に着手いたしました。
EYはグローバルに多くの拠点があるため、私もこれまでスイス駐在を経験したり、年数回の海外出張の機会を得たりしてきました。EY Japanの社員職員が、海外EYファームでの多様性を重んじる価値観に触れ、日本の現状を客観視できたことが、今回の受賞という評価をいただくことにつながったのかもしれません。
内永 グローバルな組織で働いているからこそ、価値観をアップデートできることは大きな強みですね。辻さんご自身がD&Iの意義を感じたきっかけは何でしょうか?
辻 10年ほど前、私の中で「腑に落ちた瞬間」がありました。当時参加したEYグローバルの会議でD&Iを推進させることが議題になっており、そこで「女性活躍を推進する必要性」について私なりに懸命に思考しました。そこで得た結論は、「倫理観に寄った考えで女性登用を行うのでなく、あくまで経済的な合理性の側面から考えるべきだ」というものです。
内永 おっしゃる通り、組織が倫理観だけで女性登用を進めると、どこかで無理が生じてしまいます。あくまで、「性別にかかわらず、多様な人が能力を発揮できる組織が、経済的な結果を出すことができる」、そういった考えが根底にないと、本質的なD&Iの実現は難しくなります。
辻 はい。企業活動はあくまで利益を追求する必要がありますからね。一方で10年前は、EY新日本のパートナー職(企業の担当者となる部長級社員)は女性が5%弱と少なく、女性のパートナーをクライアントが受け入れてくれるのか不安もありましたので、女性登用の意義について明確なエビデンスを示す必要がありました。先ほど話した会議の約1年後、EYグローバルが「女性登用によるグロス・マージンの変化」を調査することになり、実際に女性登用に積極的な企業の成長率が大きいことがデータで判明したのです。
内永 女性登用に積極的でない企業は、男性中心の組織で積み重ねてきた過去の成功体験に引きずられてしまっているケースが多いと感じます。しかし、これだけ状況が刻一刻と変化する現代社会において「カルチャー」や「考え方」を柔軟に変えられない企業や組織は生き残れません。
辻 まさしく。女性の多くは「出産」「育児」「介護」といった時間の制約のあるなかで、無駄のない、非常に効率の良い働き方をされています。こういった女性の仕事への取り組み方は、まわりの男性たちや組織全体に実際にとても良い影響を与えます。企業の体制を問わず、生産性の高い働き方を広げていくという点でも、女性登用は重要ですね。D&I、女性登用を進めることは、決して流行などではなく、生産性を高めることが結果的に企業に利益をもたらすということを、しっかりと説明しながら進めていきたいと思っています。
内永 その通りだと思います。少し視点を変えた話をすると、昨今では投資家の方から「ダイバーシティに注力している企業はどこでしょう?」という問い合わせが増えているそうです。グローバルの投資家の中では、「D&I活動に積極的な企業=投資に値する成長性のある企業」というのは、もはや常識となっているようですね。D&Iは企業体質を強くするため、というメッセージを、ぜひ発信し続けていただければと思います。
辻 幸一 氏(つじ こういち)
EY Japan カントリー・マネージング・パートナー(CMP)
EY新日本有限責任監査法人 理事長
1957年大阪府生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科修了後、1984年ピート・マーウィック・ミッチェル会計士事務所(現 EY新日本有限責任監査法人)入所。1989年2月スイス国チューリッヒ駐在。2004年7月シニアパートナー就任。2016年2月EY新日本有限責任監査法人理事長就任。2016年5月EY Japanカントリー・マネージング・パートナー就任。現在に至る。
内永ゆか子(うちなが ゆかこ)
NPO法人 J-Win 理事長
1946年香川県生まれ。東京大学卒業後、1971年日本IBM入社。1995年取締役就任。2000年常務取締役ソフトウェア開発研究所長。2004年4月取締役専務執行役員。2007年4月NPO法人J-Winを立ち上げ、理事長に。2008年4月ベネッセホールディングス取締役副社長、並びにベルリッツコーポレーション会長兼社長兼CEOを経て、2013年6月ベルリッツコーポレーション名誉会長を退任。