Benesse(よく生きる)を支援する経営と地域づくり
株式会社ベネッセコーポレーション代表取締役会長兼CEO 福武總一
変化の時代はチャンスの時代
日頃私が考え、実行していることをお話したいと思います。今の時代は百年に一度の危機などといわれていますが、私自身は百年に一度の変化、百年に一度のチャンスとして、ワクワクした気持ちで受け止めています。変化するということは、今までのしきたりとか体制を新しく変えることであり、今まで主役だったものが脇役になり、脇役だったものが主役になることです。その変化をどう味方にして事業計画を考えるか、あるいは地域づくりをしているかなど、私の考え方をご紹介したいと思います。
日本の現状、世界の状況のなかにはさまざまな問題があります。それらの問題を冷静に、客観的に見てみると、そこにはたくさんのヒントが隠されています。事実を正面から受け止め、自分自身は何ができるのかということを考えていくことが重要です。
これまでは東京が主役でしたが、これからは地方が主役になっていくでしょうし、20世紀は男性の時代でしたが、これからは女性や子ども、お年寄りの時代になるでしょう。またお金を稼ぐことそのものより、幸せな人生をつくること、幸せな地域をつくることが大事です。これまでは目的と手段が倒置していました。
これまでの社会は、大量生産、大量廃棄の時代でした。しかしもともと私たちには物を大事にする「もったいない」の文化がありました。そういう意味では、これからは日本の時代です。あまりにもアメリカナイズされた社会や考え方から日本の本来の価値観をどう取り戻すか。東京ではなかなか気づきませんが、地方にはいろんな生き方、いろんな文化があります。
よく生きる(Benesse)ことをビジネスにしたい
私の会社は来年で55年ですが、私が経営者になったのは昭和61年、40歳のときです。それまで私は東京で育ち、夜遅くまで活動し、そこでいろいろな人と会うのが楽しみでした。ところが父が亡くなり、岡山の田舎に帰らざるを得なくなり、その数カ月間何をしていいのかわかりませんでした。地元の方に連れられて岡山県内、瀬戸内海を見て回る機会があり、そのとき、私の意識が180度変わりました。
東京には刺激、興奮、緊張、競争、情報がありますが、一方で田舎には自然、緑、人のぬくもりがあります。そのとき私はその田舎の空気がいいと思ったのですね。東京といえば、まず「流行」という言葉が浮かびます。それに対して、自分たちの会社では「不易」なことに取り組めないかと考えました。「流行」に関して互していくことはできないが、「不易」では勝つことができるのではないか、と考えたのです。そして「不易」とは何かと考えたとき、それが人間の営みだということに気が付きました。人間の営みは一万年前も、また洋の東西も変わりません。これをビジネスにしたいと思ったのです。それが現在の事業分野である、教育や介護なのです。
さらに、世界にも進出したいと考え、ベルリッツ・インターナショナルも買収しました。現在、内永さんにCEOをお願いし、世界70か国、600か所の拠点のオペレーションをしていただいていますが、それはまさにダイバーシティの世界です。当時、岡山の未上場企業でしたが、今でいうLBO(レバレッジド・バイアウト)という手法で、ニョーヨークの上場企業を買収しました。お金がなくても、経営能力がなくても、英語ができなくても、夢や意志があればそんなこともできるのです。
そんな考えから、会社名も福武書店からベネッセBenesseに変えました。ラテン語で「よく生きる」という意味です。よく生きるとはどういうことか、私はまだ答えが出ていませんが、そのことを日常考えたい。日々の生活、日々の仕事の中で、それを考えることが重要だからです。それを考え続けながら、よく生きることと、我々のビジネスが重なるようにしていきたいと思いました。