※このインタビューは2008年2月におこなわれました。 肩書等、当時のままになっています
ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 エレクトロニクスCEO 中鉢良治氏
今のように変化が激しいときには、モノ(単一)カルチャーでは対応力が
出てこないのではないですか。(内永)
企業にロバストネス(強靭さ)を持たせるには、男性社会というユニ(均一)は非常に脆い。
私はダイバーシティが必須ではないかと考えています。(中鉢)
中鉢 今朝、内永さんにお会いするので考えてみたのですが、「女性差別」というけれど、「区別は知識で、差別は感情」。そう言ってもいいですか?
内永 区別は知識で、差別は感情、まさしくそうなんです。差別の感情がなくなったときに初めてダイバーシティがあるんです。
中鉢 今日のゴールはそこまでいきたいですね。
内永 差別が感情だと認識いただいたところからスタートです。
中鉢 そのゴールを表現しようとすると、なかなかいい言葉が浮かびません。
内永 私は、それは個人だと思うんです。
中鉢 そう、ひとつは人間の尊厳。では、人間の尊厳はどこから来るのかというと、個人はそれぞれ違うから、個性を尊重するということなんですね。
内永 私もそう言いたかったのです。
中鉢 個人が尊重されると何が生まれるか。企業の創造性に役立つわけですね。ソニーの子会社にソニー・太陽という工場があります。そこでは障がい者も健常者も一緒になって働いていますが、そこの社長が、「障害を感じない、感じさせないものをやろう」と言っています。同様に、「性差を感じない、感じさせない」というのは何なのか。性差を認めながらも、それを乗り越えることもできるのではないか。それはユニ(均一)にするというのではなくて、インクルージョン(全てを認め合う)なんですね。
内永 ダイバーシティ・アンド・インクルージョンです。
中鉢 それが今日の結論ということで(笑)。
内永 ではゴールが見えたところで、まずお伺いしたいのは、2005年の7月に私は御社の女性マネジメントたちにダイバーシティの話をさせていただきました。そのとき中鉢社長からもスピーチをいただきました。そして2007年1月に再び同じ機会をいただいたのですが、そのときのスピーチが同一人物とは思えないほど、ダイバーシティについて熱が入っていました。この2年弱の間に何があったのか、その点をまずお伺いしたいのです。
中鉢 そんなに違ってましたか?ひとつには2005年に私の次女が就職した、ということがあるかもしれません。娘は自分なりにいくつか判断基準を考え、専門を活かして社会に役立ちたいと思って就職したようです。半年経ってどうだったかと聞くと、予想以上のものと予想以下のものがあるというのです。私は企業に対して、そういう若い人の意欲を生かしてほしいという親心があります。また逆に、自分がそういうお子さん方を預かる身でもあるということです。
もうひとつは社会的な要請が以前より強くなり、DIVI(2005年DIVI=ダイバーシティ・イニシアティブ・フォー・バリュー・イノベイションが社長直轄プロジェクトとして設立された)の女性スタッフたちは一生懸命やっている。そうすると応援したくなる。実際には理解者も多くはないと思いますが、そのなかで立ち上がってがんばっていますから。
3つ目は、内永さんの「男性だけで勝てますか」という言葉が妙に残っていまして、これなんですよ(笑)。それを私は老若男女邦外を問わずと言っていますが、グローバルなリソースを使うという点では、そのほうがフレキシビリティがあり、よりロバスト(強靭)な会社になるだろうと思っています。
内永 もともとおありになった思いが、いろいろな局面の中でつながり、昨年の熱のこもったスピーチになったのですね。女性たちが「社長のスピーチに感激しました」と言っていましたよ。
中鉢 僕に直接は、そんな言葉をちっとも言ってくれませんでしたね(笑)。
内永 過去の日本はどちらかというと、「追いつけ追い越せ」で、みんなで足並み揃えて一直線に頑張ってきた。でも今はここにある「有機EL」の薄型テレビのテクノロジーに代表されるように、新しい技術を開発しなければならない。これだけ変化が激しいときは、ヘテロ(混成)でないと対応力が出てこないのではないかと思います。
中鉢 決まりきった目標で、短期間で効率を上げるためにはホモジニアス(同質)のほうが適している。ただこういった創造力とかイノベーションを持つためにはヘテロジニアスのほうがいいのです。